『幻夜』(東野圭吾著)を読みました。
『白夜行』の続編
以前に記事で書いたように『白夜行』の続編ともされている作品です。
『白夜行』は850ページでしたが今回も約800ページの大作です。3週間ほどかけて読みました。
今作が『白夜行』の続編であるかどうかについては著者は名言を避けているらしいですが、わたしは続編として読みました。
実際、『白夜行』と繋がる部分が随所に出てくるので実質的に続編だと思います。
当然のように面白い、しかし置き去り感が
読んだ感想としては、今回も序盤からあちこちに伏線がバラまかれ、それを終盤に向かって見事に回収しつつクライマックスを迎えるあたりの疾走感はエンターテインメントとしてすばらしいと思いました。
ただ、『白夜行』はある意味非常にせつなくやるせない物語でもあったのですが、今回はそういった感情をはさむ余地のない非常に冷徹な物語となっているように感じました。
複数の視点からのみ描き出され当人の視点からは一切触れられることのない「その人物」の姿が、もはや人間の心を持たない生物のようであり、何のためにそうしているのかがまったくわからない…
その人物は、銀座の高級宝飾店の社長に自分の志すビジネスをトンネルに例えて語ります。
「まずトンネルがあって入り口と出口がある。入り口には女の子がいます。あまりかわいくなくて化粧気もなく、服のセンスもよくない。でも少しばかりお金を持っています。アルバイトか何かで貯めたお金でしょう。彼女はそのお金を持って、トンネルの中に入っていきます。しばらくして出てきた彼女は、綺麗にメイクアップされていて、ヘアスタイルもよく似合うものに変わっています。少し綺麗になった彼女は、また少ししてからやってきます。今度は前よりもお金をたくさん持っているんです。どうしてかというと、綺麗になったおかげで率のいい仕事をできるようになったからです。彼女は再びトンネルに入っていきます。出てきた彼女は前よりもさらに」
トンネルをその人物に利用された男たちに置き換えると、これはまさにその人物の生き方ではないだろうかと思うのです。
過去を塗りつぶし累々と屍を積み重ねながらのし上がった先にどんな世界がるのか、また、その世界を見てその人物は何を思うのか……読後感としては置き去りにされてしまった感じがあります。
三作目を切望
本書の最後に解説があり、そのなかで本書と『白夜行』を含めた三部作について触れられているのですが、ぜひとも三作目の登場を願ってやみません。